後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
          ♫ 女 ♫

 何故か足は病院へ向かっていた。
 手入れをする人がいなくなった荒れた庭を目にする度に、入院している人のことが気になってきたのかも知れない。
 
 大きな病院だった。
 しかし、人の出入りは少なく、異様な静けさに包まれていた。
 病院封鎖は解けていたが、外来を訪れる患者の数は激減しているようだった。
 
 恐る恐る中に入ると、台の上にアルコール消毒のボトルが置いてあった。
 足元のペダルを踏むと消毒液が出てくる仕組みになっている。
 両手に吹き付けて裏表満遍なく消毒したあと、総合案内所で用件を告げると、若い女性職員がマスク着用を確認してから発熱や咳などの症状を訊いてきた。
 ないと答えて、自宅で測ってきた体温を告げた。
 平熱だと知って安心したような表情になったが、14日以内の渡航歴の確認を忘れなかった。
 ないと答えると、面会者名簿に記入するように促された。
 すべてを記入すると、面会カードを渡された。
 首から下げるようになっているものだ。
 面会に対する一般的な注意を受けたあと、「入室前後には必ずアルコール消毒をしてください。それから、患者さんが疲れるといけませんので出来るだけ短い時間で面会を終わらせて下さい」と釘を刺された。

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