婚約破棄された吸血鬼令嬢は血が飲めない〜王子に血を吸えと言われますができません!〜

1 婚約破棄された吸血鬼令嬢

「ニーナ・レタリア。すまないが、君との婚約は取りやめさせてもらう」

 目の前で申し訳なさそうに婚約破棄を宣言するのはこの国の第二王子、ケイン様。そう言われてしまった私だけれど、実はそこまでショックではない。
 そもそも、ケイン様との縁談はお父様が決めた政略結婚だったし、ケイン様の隣には美しい公爵令嬢のセラ様がいる。お二人は美男美女でお似合いだと思っているので、むしろ末永くお幸せに!と祝福を述べたいくらいだ。

 でも次の瞬間、私はさらに驚くべき言葉を耳にした。

「それで、実は弟のイオがニーナと結婚したいそうなんだ。君のご両親は了承済みで、あとは君の気持ち次第なんだけど、どうだろうか?」

 どうだろうか、と言われましても。この国の第四王子であるイオ様からの求婚を断れるご令嬢などいるのだろうか。それよりも、なぜイオ様は私に求婚を?さっぱりわからない。

 イオ様とは特別仲が良いわけでもなく、ケイン様に会いに王城へ伺った時や舞踏会などの時に挨拶をする程度。
 しかも、最近はお会いしてもすぐに目をそらされて、挨拶もそこそこにどこかへ行ってしまう。悲しいけれど、てっきり嫌われてしまっていたのかと思っていたのだ。それなのに、なぜ……?

 あまりの驚きで口をぱくぱくさせていると、ケイン様の背後からイオ様が現れた。美しいグレーの髪にアクアマリンのような美しい瞳。ケイン様も美男子だけど、イオ様も負けず劣らず見目麗しいお姿をしている。

「そういうわけだ、兄が婚約を解消したなら俺との婚約は問題ないだろう。それとも俺との婚約は嫌か?」

 これはもう、どう考えても拒否権がない口調……。

「ええと、ひとつ確認したいのですが、私とイオ様は接点がさほど多くありません。あまりに突然のことで、どうして私なのかと……」

 恐る恐るそう聞くと、イオ様はふむ、と考え込むような仕草をしてから、何かを思いついたように私を見た。

「知りたいのなら、説明しよう。一緒に来てくれ」

 そう言って、イオ様は私の手を取り歩き出す。って、イオ様が私の手を握っている!急なことで驚き周りを見ると、ケイン様もセラ様も従士たちも、皆なぜか優しい微笑みでこちらを見ている。一体、どういうことだろう?

 ずんずんと私の手を取り、イオ様は廊下を歩いていく。イオ様の手は私の手よりも大きくとても暖かくて、なんだかドキドキしてしまう……!

「ここだ」

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