婚約破棄された吸血鬼令嬢は血が飲めない〜王子に血を吸えと言われますができません!〜
 俺がニーナに執着するのにはもうひとつ理由がある。それは、突然訪れた。ケインに会いに来たニーナを見かけたその瞬間、心臓が異常な鼓動をして苦しくなる。それに、ニーナとの距離はとても離れているのに、ニーナからとてもいい香りが漂ってくるのだ。そして、ニーナの真っ白な肌に釘付けになる。

(あの美しい白い肌に、かぶりつきたい。かぶりついて、血を吸いたい。……血を、吸いたい?)

 突拍子もない自分の思考に驚いてしまう。だが、その衝動はとどまることを知らず、衝動を抑えるためには視界からニーナを消さなければならなかった。

(せっかくニーナに会えたのに、挨拶もできないままだ……しかし、この衝動は一体?血を吸いたいだなんておかしいだろう。吸血鬼じゃあるまいし)

 胸をおさえながら鏡を見つめる。そういえば、小さいころからなぜか一部の歯が鋭くとがっていた。大人になるにつれてその尖りは小さくなっていったが、まさか。

 だが、ニーナ以外の人間には衝動は起こらない。いい香りも全くしないし、血を吸いたいと思わないのだ。ニーナを見た時だけ、突然その衝動が起こるようになっていた。

 不思議に思い、王城の図書館で歴史書を読み漁った。吸血鬼に関することは何でもいい、どんなに小さな情報でもいいから知りたかったのだ。そんな中、一冊の古びた歴史書を手にする。そこには、吸血鬼の歴史とこの国との関係性、吸血鬼の特性が詳しく書かれていた。

(この国にははるか昔から吸血鬼が存在していたのか。レタリア伯爵家との血筋以外にも、それ以前から『突然変異で吸血鬼の子供が生まれることがある、その子供は、成人と共に吸血鬼としての特性が顕著になる』か。……だとすれば俺はもしかするとそうなのかもしれないな)

 歴史書を読み進めるうちに、一つの文に目が留まる。その一文によって、ニーナに対する衝動の理由がはっきりとした。

(なるほど、そういうことか。それならニーナに対してあんな風になってしまうのも納得だ)

 思わず笑みがこぼれてしまう。こうして、俺はケインとニーナの婚約解消の日を待ち望むことになった。


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