護衛騎士は聖女の教育係(男性不信)を一途に愛する
 フィオナは昔、元婚約者に婚約破棄された挙句、ガラの悪い男たちに襲われそうになった。だが、たった一人の騎士がその男たちからフィオナを助けてくれたのだ。その騎士が、自分だとヴィアは言う。

(待って、待って、そんな、まさかあの時の騎士様がヴィアだっていうの?)

 あの時の騎士の顔を思い出そうとするが、フードを被っていたか逆光で顔が見えなかったことしか思い出せない。

「教育係としてのフィオナと初めて顔を合わせた時、すぐにあの時の令嬢だと気がついた。だが、それをわざわざ言うつもりはなかったんだ。あんな記憶、きっと思い出したくもないだろうと思って、ずっと黙っていた。すまない」

 そう言って静かにヴィアはお辞儀をする。そして顔を上げたヴィアは、フィオナの顔を見て目を見開いた。

「フィオナ……」

 フィオナの両目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。

「すまない、やっぱりずっと黙ってそばにいたことはフィオナにとっては嫌だっただろう」
「!ち、違うの、あの時の騎士様がヴィアだって知ったら、なんだか嬉しくて……」

 そう言って、涙をこぼしながらフィオナは優しく微笑む。その微笑みを見た瞬間、ヴィアはフィオナを抱きしめたい衝動に駆られた。だが、ヴィアはその衝動を必死に堪える。握りしめた拳は手のひらに爪が食い込むほどだ。

「あの時、助けてくれてありがとう。あなたのおかげで、私はこうして前を向いて生きていられるわ」

 フィオナの言葉にヴィアの胸はいっぱいになる。ヴィアは一度うつむいてから大きく深呼吸をした。

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