悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 彼の家に対する真摯な想いに触れ、彼の責任感に心を動かされた。
 必死になる彼は可愛くて、だが同時に気遣う彼の優しさに頼もしさも感じてしまう。

 娼婦だからと不安に思っていたことも、そんなこと思う必要はないのだと彼が教えてくれた。
 庶民の私と同じ目線までしゃがみ、一緒に楽しもうとしてくれるその気持ちだって泣きそうなくらい嬉しかったのだ。

“あぁ、私――”

 彼はただのお客様だってわかっているのに、どうしようもなく惹かれていることを自覚する。

 一方的に与えられる快感に視界を滲ませながら彼の顔を見上げると、黒曜石のような瞳がふわりと細められた。
 
「可愛い、な」
「え?」
「あ、いや……その、正直店前に並んでいる商品の何が可愛いのかはわからなかったんだが。だが、サシャのことは可愛いと思う」
「!」

“このタイミングでそのセリフはずるいと思うわ”

 これが円満な初夜を迎えるためのただのリップサービスだったとしても。
 それでも、今だけは私へと向けられた私のためだけの言葉だから。

“だから今だけは、私の言葉も閨の戯言だと思って貰えますように”
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