悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 完全にスるつもりでいた私は、ルミール様のその返答に愕然として口をポカンと開ける。

「たった一回しかない、サシャの“ハジメテ”だろ」
「で、でも私のは」

 本番の為のただの練習だ。
 それに私は貴族令嬢ではなく娼婦。
 体を開くのが仕事で、きっとこの仕事を終えたら色んなお客様とすることになる。

 決して“ハジメテ”を大事にして貰うようなことはない、のに。
 それなのに。

「一度しかないことに変わりはないだろう」

 だから、と前置きをし、気恥しそうに咳払いをするルミール様の赤い頬をじっと見つめる。

「せめて、家で。勢いではなくちゃんとサシャと一緒にしたいんだ」
「一緒に?」
「俺は今まで怖がらせるしか出来なかったような男だからな。だから、痛くしないとは約束出来ないが……それでも、少しでもサシャの初めてがいい思い出になるようにさせて欲しい」

 それだけ一気に話したルミール様が、そっと私の唇へと口付ける。
 表面を掠めるだけのその口付けが、今日したどの口付けよりも私の胸を震わせた。
 
“まさかそんな言葉を貰えるだなんて”
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