悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~

17.お買い上げありがとうございます!

 娼館・ノースィルの朝は想像以上に遅い。
 仕事の内容上どうしても朝方近くまで働くため、早起きのお姉様たちですら昼過ぎにしか起きてこないからだ。

 「よし、今日の下ごしらえは完了ね!」

 ふふん、と思わず鼻を鳴らし達成感のまま見つめるのは細かく切られた野菜たち。
 今日はこれらを使ってクリームシチューを作る予定だ。

“公爵家でも一回だけ手伝ったわね”

 公爵家からの極秘の仕事を無事終えた私は、泊まり込みで疲れただろうから、とまだ次のお客様は取らず、この仕事を受ける前の頃のように裏方の仕事に従事していた。
 だが本当はわかっている。
 私の気持ちがまだ追いついていないから、他の客にあてがわれていないのだ。

「女将の気遣いって案外バレバレなのよね」

 いまだに公爵家にいたことを思い出すと胸が軋む。
 それはここに戻って一週間たった今でも変わらない。
 
 そのことに女将も気付いているからこそ、私は今もまだ新しい客を取ってはいないのだ。

“いつまでも引きずってても仕方ないのに”

 それでも夢のような時間だった。
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