悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 悪徳なんて呼ばれていた彼は少し不器用なだけでとても温かかったし、私についてくれていた侍女の三人もとても丁重に接してくれていた。
 執事のアドルフさんだって同様だ。

 軽蔑の目で見られるかもと思っていた人たちだって受け入れてくれて嬉しかった。
 ――そう、全て夢なのだ。

「そして私はその夢を売る娼婦なんだから!」

 パシンと自身の頬を両手で叩いた私は、使った道具を慣れた手付きで片付ける。
 そして向かったのは女将の執務室だった。

「女将、いるっ!?」
「なんだいサシャ、相変わらず忙しないわねぇ」

 ドタドタと勢いよく向かい、その勢いのまま扉を開けるとわざとらしいくらいのため息が吐かれる。
 そう、これが元々の私の日常だったと改めて実感した。

「私、そろそろお客様を取りたいの!」

 一度だけのあの経験を大事にするからいつまでたっても胸が痛むのだ。

“もちろん私にとっても初めてだったんだから、特別なことに変わりはないんだけど”

 でも沢山経験したうちの最初の一回と、最初で最後の一回は重みが違う。
 だからこそ私は自身の仕事と向き合うためにそう直談判しに来たのだ。
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