悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 相手が私だから楽しめたのかもなんて思った自分が恥ずかしい。

「だから、勘違いしちゃいけないってわかってたのに」

 女将にも釘を刺されたばかりだったのに。

 可愛い令嬢とは違う、どこか自立した格好いい令嬢。
 今までの初夜で逃げ帰り泣いて何も言わなかった花嫁たちとはイメージの違う次の彼の相手に驚きつつも、似合いだとそう思った。

“私とは違う、身分のある女性……”

 最初からわかっていた。
 私は『練習』だってことを。

 ただ、彼が『本番』を迎えるだけ。

「私はただの娼婦なのよ」

 立場も、身分も、全てが違う相手に心を動かされるなんてあまりにも愚かだ。

 未来だって違う。
 彼は幸せな家族を作り、私は知らない相手に体を暴かれる日々なのだ。
 それが仕事だから。

 ――この仕事は嫌いじゃなかった。
 いいことばかりの仕事ではないけれど、お姉様たちの部屋を出るお客様たちはみんな満足そうな顔をしていて、時には母のように、時には恋人のように振る舞い相手を悦ばせるお姉様たちが誇りだった。

 いつか私も、そんなお姉様たちのようになりたいと思っていたはずなのに。
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