悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 ハタハタと足元に水滴が落ちて地面に滲み消えていく。
 まさか自分がこんなことで泣くだなんて思わなかった。

 涙が止まらないことに戸惑いつつ、泣いているだなんて気付かれなくてごしごしと乱暴に買ったばかりのショールで拭いたけれど、防水仕様になっているせいで頬と足元を濡らすだけ。

「水を弾くから涙を吸い取ってくれないじゃない……」

 それはまるで、嘲笑われているような錯覚を起こす。
 最初から許されなかったし、最初から全てわかっていたのだから。

 ズキズキと痛むこの心が、いつの間にか育っていた恋心を私に実感させる。
 そしてもちろん、その恋が始まる前から終わっていたということも。


「……お客様を、取ろう」

 彼だって言っていたじゃないか。
『私しか知らないから、私にしか勃たない』のだと。

 私だって彼しか知らないのだ。
 他の人と閨を過ごせば、この胸の痛みだって和らぐかもしれない。
 そうやって時間をかけて慣らせば、いつかは「そんなこともあったわね」と笑い飛ばせる日が来るのだろう。

 淡い初恋だったと、愚かな初恋だったと笑い飛ばせる日が、きっと――……
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