悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
「もし今日もルミール様が来たら、断って貰うように女将に言おう」

 部屋に入る前ならば娼婦側から断ることが出来る。
 表向きは、他の客が入っているからや体調が悪いからなど様々な理由をつけ、相手が特別悪質な客でなければ別の娼婦が相手をするのだ。

 彼が悪徳と呼ばれていることはみんな知っているが、私が怪我ひとつなく大事に抱かれていることは知っているので代わりの立候補者は沢山いるだろう。

 それに私たちは高貴な貴族令嬢ではない。
 元から彼の相手を嫌がる者はいなかったはずだ。

“だから、大丈夫”

 そう言い聞かせた私は、そのまま顔を隠すようにして噴水広場の方へ小走りで向かった。
 多少遠回りにはなるが、噴水広場を経由してぐるりと迂回すればルミール様たちが散策しているところを見ることなく娼館へと帰れるからだ。

 ノースィルへ戻る頃には涙はなんとか止まったけれど、酷い顔になっていたのだろう。
 「ルミール様が来られても通さないで欲しい」と女将に頼み、私は夜をお客様と過ごす部屋ではなく、普段寝泊まりしている方の部屋へと帰る。

「気を遣わせちゃったわね」
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