悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 言われた通りに順番に目へとあてがうと冷えた目元にその温かさが心地よく、癒されていると実感した。

“心なしか浮腫みも取れてきてる気がするし”

 あとでマッサージもすれば、仕事の始まる夜には元通りに戻るだろう。

「とりあえず本当に今日客が取れるのかはその目の腫れが治ったことを確認してからだよ」
「わかったわ」

 念押しする女将に頷いて返事をし、執務室へと戻ろうとする女将の背中を眺めていた私は、全然聞くつもりなんかなかったのに気付いたら口を開いていた。

「昨日、ル……公爵様は?」
「あぁ。安心しな、昨日はそもそもここへ来てないから」

 ドキリとした。
 自分から部屋に通さないようお願いしたくせに、彼が来なかったことにショックを受けるだなんてあまりにも滑稽だ。

“もしかして、昨日のあの女性と”

 すれ違った場所は酒屋が近くにあった。
 勝手に露店街へと向かったと思っていたが、実際はそちらへと向かったのかもしれない。

 とうとう彼が本番を迎えたのかもしれない。
 もちろん相手の令嬢は貴族だろう。
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