悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 婚姻を結ぶ前にそういった行為には及ばないかもしれないが、無かったとも言い切れないのだ。

「これだっていつかくる未来とわかっていたじゃない」

 傷つくこと自体がおこがましいのだと思いつつ、しっかり傷ついている自分に自嘲する。

“どうせ今日からお客をいっぱい取るつもりだったのよ”

 丁度良かった。これでもう彼が来ることもないのだろう。
 私だって昨日この気持ちに決別したばかりだ。

「大丈夫、私はやれるわ」

 こんなこと何でもないのだと、どうでもいいことなんだと自分に言い聞かせ私は再び厨房へと向かったのだった。

 ◇◇◇

「いよいよ、ね」

 きっとこれが本当の私の娼婦としてのデビューになるだろう。
 バクバクと早鐘を打つ心臓は、痛いくらい苦しくてこれが緊張からなのか未だに燻っている想いからなのかはわからない。
 
 でも大丈夫、私はヤれる。
 彼が練習を詰んだ数だけ私も経験をした。
 相手は一人だがこの十分な経験こそが私の技と自信に繋がっているのだから。

「よし、来い……!」

 少しでも早く客を入れてくれるよう頼んだのだ、きっとひとりくらい指名のないお客様がいるはず。
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