悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
「身分が違うことも、私がただの練習相手で閨を担当するだけの係だってこともわかっています! むしろ最初からそういう契約だったしそう言って買われたことだってわかってるんです」

 振り向こうとしている気配を感じ、それを阻止すべく両腕に力を込める。
 こんな娼婦失格なことを口にしている姿を、見られたくはない。

“それでもちゃんと最後まで伝えなきゃ。ルミール様を傷付けたままにしたくないもの”

 口にしているこの言葉がどれほど分不相応だとしても、私の言葉のせいで傷つけたのならちゃんと説明しなくちゃいけないと思うから。
 例えその結果、もう彼が二度とここに来てくれなくても、私が娼婦として働けなくなったとしても。

「だけど、私と会っていない夜は他の人を抱いてるのかなって、その人と練習の私とは違う“本番”の時間を過ごしているのだと思うと苦しくて。“本物”の気持ちを向けられるんだと思うと辛くて、傷を抉るような言葉を……発しました」

 ぎゅっともう一度強く彼の背中にしがみつく。
 この見た目よりもがっしりとした体躯に包まれる時間が凄く幸福だったことを思い出しながら、私はそっと手から力を抜いた。
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