悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 だらん、と腕が下がり、彼との距離がゼロからイチへとなる。
 この僅かな距離が溜まらなく寂しいなんて、私はどこまで烏滸がましいのだろう。

「ルミール様を想うと胸が締め付けられて、どうしたらいいかわからなくなるんです。熱くて仕方ないのに心地よくて、ずっと側にいたくなる。だから、あんな言葉で遠ざけようとしました。決してルミール様が、そういった人だなんて思っていません」

 ごめんなさい、と最後に呟いた言葉は彼に聞こえただろうか。
 
 もし聞こえていなくても構わないと思った。
 この謝罪は、私の自己満。許しを乞うことすら、きっと烏滸がましいことだから。

 そうしてまた一歩、後退るように彼から距離を取ろうとした時だった。

「――その感情は、なんなんだ」
「え」

 聞かれた意味がわからず思わずきょとんとしてしまう。
 その感情って、どの感情だろうか。
 まさか、胸が締め付けられるのに心地いい、この大事な感情のことだろうか。

“本当にこの人は!”

 でも、こんなところもルミール様なのだと苦笑する。
 こんな彼が、私は好きだったのだから。
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