悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
「経営はこのまま女将に任せる。他の嬢たちの雇用条件も変えなくていい」

 けど、と一度言葉を区切ったルミール様が私の腰へ手を回しぐいっと抱き寄せる。
 さっきまでと違い、今度は向かい合って抱き合うような形になり私の胸がドキリと跳ねた。

 じっと私を見下ろす彼の瞳が僅かに不安そうに揺れていることに気付き、自然と私は彼の頬へと手を伸ばす。
 避けられることなく触れた彼の頬は、緊張からなのかいつもより強張っている気がした。

「サシャはここの娼婦だ。そしてここを俺が買い取ったとなれば、サシャの雇用主も俺になる」
「雇用主が、ルミール様になる?」
「そうだ。サシャは公爵家で永久雇用だ」
「永久雇用……」

 その言葉が指す意味とは、まさか。

「ここではなく、公爵家に来てくれないか」
「公爵家に?」
「そうだ。ここのオーナーが俺になったんだ、つまりオーナーの所有物である公爵家も勤務地のひとつになり得るだろう」
 
“ならないわよ!”

 繰り出されたとんでも理論は何一つ理論的ではなく、むしろ横暴。
 
 それなのに、どうしてだろう。
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