悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 ロマンチックな要素がひとつもないこの彼らしい言葉が、何故か私には甘く聞こえる気がした。
 
「愛人なんかじゃない。ひとりで待たせるようなこともしない。待つ辛さなら俺にもわかるから」
「ルミール、様」
「だから妻として、側にいてくれないか」
「でも、それじゃ」

 平民が貴族、それも公爵家という高位貴族の妻になるだなんてあり得ない。
 しかも私は娼婦なのだ。世間からの冷たい視線はより厳しいものになるだろう。

“そんなのダメよ!”

「悪女に家を乗っ取られたって思われますよ!?」
「サシャは悪女なのか?」
「悪女……かは、わかりませんが、でもっ」

 焦る私に冷や汗が滲む。
 だってこのままでは、公爵家に、何よりルミール様に……!
「悪評が立ってしまいます!!」

 訴えるようにそう口にすると、一瞬きょとんとした彼が思い切り吹き出した。

「なっ、なんで笑って……!」
「いや、だって悪評って……、『悪徳公爵』に、か?」
「え……、あっ」

 そうだ。彼は悪徳公爵。
 数多の悪評が積み重なってついたあだ名がまさにそれなのだ。

「ひとつくらい増えても構わない」
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