悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
“確かに本物の雰囲気を出すのなら……って、違うでしょ私!”

 一瞬納得しかけてすぐさま頭を左右に振りそんな思考を追い出した。

「それは閨事の話ですのでっ、今はただの娼婦ですから!」
「ふむ、そういうものか……?」
「そうです!」

 大きく頷いて見せると一応納得してくれたらしく、ホッと息を吐いた私……だったのだが。

「では、閨では名前を呼んでくれ。それならば問題はないだろう」

“どうしてそんなに名前を呼ばせたいのよ!?”

 じぃっと私を真っ直ぐ見つめる彼の眼差しに自然と心臓が早くなる。

 できれば私は呼びたくない。
 悪徳公爵と呼ばれる彼が、本当はこんなに真面目で真っ直ぐな人だと知ってしまったから。

“きっと私もはじめてのことばかりで心を乱されているだけだわ”

 そう自分に言い聞かせなくては、うっかり彼の熱い眼差しを勘違いしそうになる自分が怖かった。
 もしこの落ち着かない鼓動に名前がついてしまったら。
 夢を与える側である娼婦が、夢を見てしまったら。

「そんな不毛なこと、したくないもの」

 だって私はただお金で買われた閨の講師。
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