悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
“愛されていた方なんだわ”

 夫人の大事にした景色を守ろうときっとみんなで手入れをしているのだろう。
 彼は公爵家という王族に次ぐ身分の高い家だとは思えないくらい温かなこの雰囲気の中で育ったのだ。
 悪徳公爵だなんて今では言われているが、きっと彼の本質もこの温かさで培われたものなのだとそう思った。

 そしてここで働く彼らがこの家を大事に想っているように、きっと公爵様も大事に想っている。
 だからこそ家の存続のために跡継ぎを望まれていて、そしてその為に私が買われたのだ。

「悩んでいても仕方ないですね! 私は私に出来ることをするまでです!」
「あはっ、その意気ですよぉ~!」

 結局私に出来ることはひとつだけ。
 まずは今晩のお仕事を頑張ることだから。


 ――ところが。

「今晩は無し、ですか?」
「折角サシャ様に来ていただいているのに申し訳ございません」

 そう言って頭を下げるのはアドルフさんだった。

“そうよね、公爵なんだもの、忙しいわよね”

 てっきり今晩も呼ばれるものだと思っていたのだが、仕事が忙しいらしく突然休みになってしまったのだ。
 それは正直仕方ないと思う。
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