悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 だからこそ、高級娼館の娼婦とはいえ平民の私が筆記具を求めたことに疑問を持たれるのかと思ったのだが、あっさり受け入れられて思わず怪訝な顔をした私は、差し出されたその筆記具にインクが無かったことで更に驚いた。

「え、これって」
「万年筆でございます」
「ちょ、そんな高級なものいいんですか!?」

 もちろん盗む気なんてないが、うっかり壊してしまう可能性だってあるのにあっさりと渡されて愕然とした。

「もし私が壊したりしたら……」
「形あるものはいつか壊れてしまうものですよ。それにサシャ様がわざと壊されるような方だとも思いませんので」
「でも」
「大丈夫です。どうぞお使いください」

 私がここにき来てまだ二日。
 信頼関係を築くにはまだあまりにも早すぎると思うのだが、そう言い切られるとなんだかくすぐったい気持ちになってしまう。

「それに、ルミール様のために何かをしようとしてくださっているんですよね」
「! ……はい」

 にこりと微笑みながらそう言われ、私は素直に頷いた。

“バレバレだったのね”

「私にも出来ることがあればいいなって思いまして」
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