悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 腕を拘束されているので逃げれはしないが、こんなに堂々と向かうことに焦ってしまう。
 だって私は娼婦なのだ。
 この仕事を恥に思っているわけではないが、他の人からどう見られるかくらいは知っている。

 そのせいで彼に良くない噂が立ちでもしたら、と思うと不安で胃が痛い。
 彼にはよくして貰っている。いや、彼だけではない。アドルフさんやシグネ、イレナにミリーなどまだ沢山の人と知り合ったわけではないが、それでもとても丁重に扱われていることをわかっているからこそ迷惑をかけたくはなかった。

“少しでも嫌な顔をされたら全力で走って去ろう”

 もうそれしかない。
 夜や閨ならともかく、昼間の外で会うことに嫌悪感を抱くかもしれないから。

 ――そう内心決意した私は、渋々訓練場へと足を踏み入れた。
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