悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 だが公爵様は違う。彼は悪徳公爵として貴賤問わず有名なのだ。

 娼婦を邸に置いていることがすでに知れ渡っている公爵邸とは違い、必ず一緒にいるのが誰なのかというところから調べられるだろう。
 そうなれば私の素性なんてすぐに明らかになってしまう。

「調べた相手の正体がただの娼婦だとわかったら……」

 貴族の世界は足の引っ張り合いだとそう聞いた。
 ならば悪意ある内容に歪められて公爵様のマイナスになってしまうのではないか。
 そう思うと、公爵家の中で誰かと会うよりも怖くなった。

“せめてお忍び、お忍びということにして公爵様の素顔を隠せないかしら?”

 それならばまだマシなのではないだろうか、と思ったのだが。

「準備は出来たか?」
「着飾ってるぅ!」

 扉をノックし入ってきたのは、いつもよりカッチリとした衣服に身を包んだ公爵様だった。

「ルミール様、いかがですか?」
「あぁ」

 ミリーに促され私の足先から頭の先までをジッと見た公爵様が短くそう返事する。

“え、それだけ?”

 似合ってなかっただろうか。いや庶民の私に似合わないのはある意味当然ではあるのだが。
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