悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 でもこれは練習なのだ。

「えーっと、一応女性の服装は褒めた方がいいですね」
「なに?」
「まぁ相手が私なので褒めるところが見つからないのかもしれませんが、その時はドレスを褒めましょう。色合いでも形でもいいですし、とにかく相手の気分を上げるようにすべきです、もうデートは始まってるんですから」

 私を褒めてとねだっているようで少し気恥しいが、だがこれも業務のうちだと羞恥心に目を瞑りそう指摘すると、一瞬考え込んだ公爵様が再び口を開いた。

「似合っている。その淡い緑のドレスがサシャの瞳の色と合っていて、俺の瞳も緑だったら良かったのにとそう思った」

“お、おぉ……!”

 想像よりまともな褒め言葉が飛び出し私は思わず感心する。

「いい感じです、公爵様! 本番もそんな感じでまずは褒めるところから始めましょう!」
「そうか、良かった。つまり本心をちゃんと口にすることが大事なんだな」
「えっ」

 なんだ、やれば出来るじゃない。なんて安心した私がホッと息を吐いたところへ重ねられた言葉にドキリと心臓が跳ねる。

“こ、これも褒める練習、よね?”
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