悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
「さ、サシャ、その、胸が」
「え? あっ!」

 視線を逸らしながらボソッと告げられた言葉に一気に私の頬も熱くなる。
 焦って彼から離れた私は、素知らぬ顔をしてくれている店主に内心お礼を言った。

「あー、その、アクセサリーは気に入らないか?」
「そっ、ういう訳では、ないんですが」

 恥ずかしさを誤魔化すように私も全然違う方へ視線を彷徨わせる。
 ちらりと視界に映るのは、やはり私には似合わないような大振りな宝石が付いた装飾品たちだった。

“練習なんだから本当に買う必要はないわよね”

 彼が次回、未来の花嫁と来たときにその彼女が気に入ったものを買えばいい。
 
 ここにあるのは私には高望みで、何より好みじゃない。
 好みじゃなくても美しいというのはわかる。
 見惚れるような輝きのアクセサリーは見ているだけで楽しいけれど、もしいつか異性に貰うのだとしたら、それは練習ではなくちゃんと私を想ってくれている人から欲しいのだ。

“だから、ここに私が欲しいものはないわ”
 
 自分で出した結論に納得した私は、そっと彼の袖を引く。

「……服が、欲しいです」
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