えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 そんな私たちを現実に引き戻すようにコホンと咳払いをした兄が、すぐに表情を引き締めジルへ敬礼する。

「この辺りの制圧は完了致しました」
「あぁ」

 その短いやり取りで、この事件があっさりと解決したことを実感した。
 

「馬車は無事みたいだから、また馬を繋いでこの馬車でも帰れるけれど……」

 ジルのその言葉に、ビクッと肩を跳ねさせた私は思わずジルの袖をぎゅっと掴む。
 その様子を見て私の手を優しく撫でたジルは、私の膝と背中に腕を回して抱き上げた。

「……このまま僕の馬で一緒に帰ろうか」

 その一言にホッと息を吐き、ジルの首筋に頬を擦りつける。
 私はどうやら思った以上に不安だったらしい。

「はい、ジルと一緒がいいです」

 ポツリとそう呟くと、私の頭に頬を寄せたジルがそっと私の額へと口付けた。

“もっと、したい”

 これが現実なのだと、もうジルの元に戻ってきたのだと実感したくて顔をあげる。
 じっと見つめてしまうのは、ジルの少し薄い唇で――


「ルチア」
「!!」

 咎めるような低い声で再び私を現実へ引き戻したのはもちろん兄だった。
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