えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 ドキドキと高鳴る鼓動が僅かな期待を胸に燻らせ、このまま頷いてしまいそうになる。が。


 ――バチン!

「ルチア!?」

 私が私の頬を思い切り叩くとその場にそぐわない乾いた音が響き、ギョッとした殿下が目を見開く。
 そして慌てたようにジンジンと熱く痛む頬に殿下が手をかざした。

“温かい”

 熱く痛んでいたはずなのに、その熱とは違った包むようなじわりとした温かさが私の頬を包み、そして痛みがスウッと引く。

 これが治癒、殿下だけが持っている光の加護の力なのだろう。
 そんな貴重な力を躊躇いもせず愚かで何も出来ない私に与えてくれる、その彼の優しさに胸が締め付けられる。

“やっぱり私とは釣り合わないわ”

 まさに聖人のようなその慈悲深い行いに、わかっていたことだけれど私は改めてそう気付かされたような気がし、そしてだからこそ役に立てることがあるならば何でもしたいとそう思った。

「お嫁さん、と仰られましたよね」
「あぁ。ほら、僕にはまだ婚約者がいないだろ? それはつまり」
「つまり、真実の愛を見つけるまでの時間稼ぎがしたいということですね!?」
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