えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~

20.ただこれからも見つめるから

「どうしてこれで恋人が成立しないんだ……!」
「成立?」
「いや、いいんだ。ルチアはそんなところも魅力だから」
「?」

 謎に握り拳を作っているジルを不思議に思いながら見ていると、ふと私の袖が引かれていることに気付く。
 慌てて振り返ったその先には、小さな女の子が立っていた。

「あ、ごめんね! 何かして遊ぼうか?」
「ううん、あのね、お姉ちゃんとお兄ちゃんは夫婦なの?」
「いいね! 君は神かな?」

“ふ、夫婦!?”

 何故かジルが指をパチンと鳴らしているが、流石に破棄予定の肉壁婚約者がその関係を飛び越えて夫婦というのはまずいだろう。

「お姉ちゃんたちは別に夫婦って訳じゃなくてね」
「じゃあ夫婦じゃないの?」
「そうだね、もうすぐ夫婦になるとはいえまだ婚約者だからね」
「こんやくしゃ?」
「夫婦になる約束をしているふたりのことだよ」
「ちょっと、ジル!?」

“いや、何一つ嘘ではないんだけれど!”

 あまりにも当然のようにそう続けられて動揺している私とは裏腹に、その女の子は納得してしまったらしく「わかった」とだけ返事して他の子供たちのところへ戻ってしまった。
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