えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
“こうやっていつか自分たちの子供が生まれたら、なんて話しながらジルと一緒に子供たちと遊ぶなんてこと、確かにもうないかもしれないわ”

 だったら、今だけは。

「私もただのルチアとして、楽しんでもいいわよね?」

 零すように私はそう呟いたのだった。

 ◇◇◇

 結果として孤児院への訪問は大成功だった。
 思ったよりも子供たちが元気で、文字通り泥だらけになったものの、まるで自分も子供に戻ったかのように走り回るのは凄く新鮮で少し落ち込んだ気持ちが浮上する。

「でも、こんなに泥だらけになるとは想定外でしたね」
「あはは、確かにそうかも」

“それにこんなに大きく口を開けて笑うジルも新鮮だわ”

 まさに少年のように追いかけっこをする彼を、一体誰が王太子だと気付けるのだろうか。
 そんな無邪気な姿が可愛く見える私も大概なのだが。

「楽しかったですね」
「うん、子供たちも喜んでいたね」
「はい」

 自然と視線が彼の方へと向かう。
 孤児院でのことを思い出しているのか、馬車の窓から外を眺めるジルの表情は穏やかだった。

“いつものジルだわ”
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