えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
「ジルが謝ることじゃないわ!」

 少ししょぼんとしたジルに慌ててそう言うと、どこか困ったような表情を向けられる。

「でも、不甲斐ない婚約者でごめんね」
「もう! さっきも言ったようにジルは何も悪くないわ。相手が何も知らなかったのならどうしようもないじゃない」

“それに下っ端に何も知らせないことなんてよくあるもの”

 使われる側も、雇われであれば積極的に事情を聞きたがったりもしない。
 雇い主に口封じされる恐れがあるからだ。

「ただ、情報は得られなかったけどわかったこともあるよ」
「わかったこと?」
「あぁ。彼らはどうやらあの場所で乗り換えるはずだったようなんだが、時間になっても来なかったみたいなんだ」

“そういえばそんな話をしていたかも?”

 あの時馬車の外から聞こえた声を必死で思い出していると、ジルの声色が僅かに低くなる。

「けど、調べさせたがあの場所へ他の馬車が向かった形跡がなかったんだ」
「……え?」
「ルチアたちが乗り換えさせられる予定だった馬車は、最初からなかった」

“最初から無かった?”

 言われていることの意味がわからず唖然としてしまう。
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