えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 そんな誰よりも高潔な彼女が、唆されたくらいで行動を起こすはずなんて絶対ないという確信が私の中にある。

“信じたいだけなのかもしれないけれど”

「信じないで離れるより、信じた結果失う方がずっとマシだもの……」
「君のそういうところが僕も凄く好きだよ。でも、犯人たちの尋問が上手くいかず黒幕が誰かわからない以上、ルチアを危険に晒すわけにはいかないんだ」

 私を諭すようにジルがそっと私の手に自身の手を重ねる。
 思ったよりもずっと彼の手が冷たい。少なからずジル自身もこの現状に納得していないのだろう。

“でも、折角仲良くなれたのに”

 本当はわかっている。
 ただの肉壁であっても表向きは王太子の婚約者なのだ。

 そして王太子本人までもが襲われたばかり。
 その目的も明確にわかっていない以上、可能性のある相手とは距離を置くべきなのだということを。

 
 それでも、はじめて出来た友達だった。
 そんな彼女を、ただ疑わしいからと遠ざけるなんてしたくない。

“一度遠ざけてしまったら……、一度彼女を疑ってしまったら。きっと元の関係には戻れないわ”
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