えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 兄のその合図をキッカケに侍女が私の部屋へと大きな箱を持って入る。
 流れるように開けた中には、一着の淡いイエローのドレスが入っていた。

「これって」
「今度の夜会、迎えに来るって言ってたぞ」
「じ、ジルが来ていたんですか!?」
「いや、王城で聞いた」
「あぁ……」

 兄は第一騎士団所属。
 そして第一騎士団は王城内に駐屯地があるのだ。

 王城ならば、ジルに会うことも可能だろう。

“こうやって会わなくなってはじめて気付いたわ”

 今までいかにジルが時間を作ってくれていたのかということを。
 毎日のように会えていたことがどれほど貴重だったのか、どれだけの努力の上に成り立っていたのかを知った。

「でも、迎えには来てくれるのね」

 ジルの運命の相手がまだ現れていないのだとホッとする。
 そしてそんな自分の心の狭さに辟易した。

「今回は俺がエスコートしようか?」
「お兄様が?」

 孤児院からひとりで戻ったあの日から、きっと何か察しているだろうに何も聞かなかった兄がそんなことを口にしてぽかんとする。

「無理して殿下と行かなくてもいいんだぞ」
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