えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
「まぁ前回のよりはマシだな。真っ白のドレスに殿下カラーの刺繍が施されて殿下の瞳に似た装飾品一式。あのまま結婚するのかと思ったよ」
「なっ!」

 さらりと告げられるそんな思い違いに私の頬が一気に熱くなる。

 反射的に言い返そうと口を開くが、タイミング良く馬車が止まったので仕方なく口を閉じた私は、せめてもの抗議を込めて思い切り兄を睨んだ。

「来てくれて良かったよ」
「ジル……」

 馬車から降りようとする私をエスコートすべく手を差し出してくれたのは、久しぶりに顔を見る仮初めの婚約者。

 元気にしてた? とか、忙しかった? とか聞きたいことは沢山あるが、久しぶりに会ったからだろうか?
 私の口からは言葉が何も出ず、少し気まずい空気が流れる。

「中でお待ちいただいても良かったのに」
「僕が早く彼女に会いたかっただけですよ」

 私の代わりに口を開いた父へとにこやかに返事をするジルも、いつもより少し元気がなさそうに見えた。

「では殿下、ルチアは頼みますわね」
「もちろんです」
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