えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 そう言って先に中へ入る両親と兄を見送った私は、馬車から降りたまま彼の手のひらに乗せていた自分の手を引っ込めようとして――

「僕たちも行こうか」
「え、えぇ」

 その手をぎゅっと握られドキリとする。
 エスコートと言うには少し不恰好ではあるが、しっかりと繋がれた手が決して嫌ではなかった。

 
 そのまま手を繋いで会場に入ると、既に沢山の貴族で溢れている。

 無意識にララの真っ赤な髪を探すが、人がとにかく多くて見つけられそうにはなかった。
 というより、すぐに人に囲まれてそれどころではなくなったのだが。

「こちら我が領地で取れた野菜を使ったキッシュでして」
「この子は自慢の息子で、実は学業の成績が……」
「実はこのチーズなのですが」

“あ、圧が凄い”

 ここぞとばかりに特産品や自分たちの子女を売り込もうとする彼らの勢いに若干戦いていると、然り気無くジルが手を引き私を背後に庇う。

“私が肉壁にならなきゃなのに!”

 私が壁になるべきなのに、ジルを物理的に肉壁にしてしまい焦っていた時だった。

「そういえば、殿下は加護を失くされたとか」
「!」
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