えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 肩に頭を乗せたまま彼を見上げると、一瞬目を見開いた彼の瞳が様々な宝石のように光輝く。
 そしてすぐに彼の表情がふわりと緩んだ。

 そのまましばらくお互いのことを感じながらじっとしていた私たち。
 そんな私たちにひとりのメイドが近付く。

「お飲み物はいかがでしょうか」

 今日は各領の特産品が沢山集まる夜会。
 その商品を売り込みするのが目的の家も多く、きっとその中の誰かが持ち込んだ飲み物なのだろう。

 むしろさっきまで誰も私たちに近付いて来なかったことの方が不自然だったこともあり、私は警戒なくその透き通った紫色の液体を受け取った。
 
 ふわりと香るのはブドウで、一口含むと芳醇な香りが鼻を抜ける。
 舌に広がる味も決して渋みはなく、甘いブドウをそのまま食べたかのような果汁感。

“すっごく美味しいわね”

 見た目が透き通っているのでブドウ水のようなものをイメージしたのだが、しっかりと味の濃いブドウジュースになっていた。
 アルコールは入っていないようで、高級なブドウジュースに舌鼓を打った私は朝食時に飲むのもいいかも、なんて呑気に思いながらコクコクと飲み進める。
 
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