えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 さっき啖呵を切ったことと今日はずっと緊張していたことで喉が渇いていたのだろう。

「あぁ、また毒見なく……」

 ジルが若干顔を歪めるが、今日はそもそもそういう会なのだ。
 どこの誰が持ち込んだかも調べればすぐにわかり、かつこの夜会で出す前に出すに値するものかも事前にしっかりと検査しているので限りなく安心感がある。

 まぁ、自分の名前を出しながら暗殺を企むような愚か者はいないだろうという話だ。

「このブドウジュース、すごく爽やかで美味しいわよ」

 想像以上にこのジュースが気に入った私がにこにことしながら飲んだグラスを眺める。
 その私の様子を見て苦笑したジルも、受け取ったその紫色の透き通ったブドウジュースをグラスを口元へ運んだ。

 彼のグラスの中でパチパチと弾ける泡が夜会の照明を反射しキラキラと輝いて――
 
“……泡?”

 僅かな違和感に背筋が凍る。
 違うかもしれない。そういった飲み物なのかも。 
 私が飲んだものとは違う種類だっただけという可能性もあるけれど――

「じ、ジル!」
「ん?」

 私の呼び掛けにピタリと動きを止めたジルからグラスを奪う。
< 173 / 262 >

この作品をシェア

pagetop