えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 そうなれば既成事実を作りたい令嬢がジルにそういった類いの薬を盛る可能性があるのだということを今更ながらに思い出した。

「ん、ぁあっ、はふ、毒じゃ、なくて……良かっ……」
「何がいいんだ、くそ、ルチアっ」
「だって、誰も貴方を嫌ってないって、ことだもの……」

 ジルを消そうと悪意を持って毒を盛ったのではなく、彼を求めているからこその媚薬。
 もちろんそんな方法は許されないし認めるつもりもないが、その反面誰も彼を害そうとしていないのだと安堵した。

“誰かに嫌われているかもなんて思ってほしくないわ”

 誰よりも優しい貴方には、誰より幸せでいて欲しいから。

「これをジルが飲まなくてよかった」
 
 体が内側から燃えるように熱く、苦しい。
 これがたとえ毒じゃなくても、こんな思いをジルにはして欲しくない。

「僕なら加護がなくても一通り耐性はつけてるんだ!」
「それでも、次もまた、私が飲む……わ。加護があっても、苦しむジルは、見たくない」

 だって、私は。
 
「好きな人が苦しむところなんて見たくないもの」
「っ、本当にルチアは……!」
< 176 / 262 >

この作品をシェア

pagetop