えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 その事実が苦しくて、心臓が潰れてしまいそうだ。

“肉壁の婚約者でいいなんて、よく言えたものね”
 
 私が欲しいのはジルなのだと改めて実感させられる。
 一夜の情けでもいい。思い出だけでもいい。
 今だけは愛されていると思い込みたいのに、こんな時だからこそなのか、彼は絶対に首を縦には振ってくれないのだ。

「ワガママはもう言わないから」
「ルチアがワガママなんて」
「これが最後でいいから、ジルのを」
「だから最後になんてしたくないからっ!」
「ッ!?」

 それでも諦め切れずにすがり、希う(こいねがう)私の言葉を遮るようにとうとうジルが声を荒げる。
 初めて聞いたその怒鳴り声に、私は言葉を失った。

 薬のせいなのか、あまり焦点の合っていなかった視線が唖然としたまま彼へと固定される。

 そしてやっと気付いた。
 彼も泣いているということに。

「ジ、ル?」
「ルチア、好きなんだルチア」

“好き?”

 それは幼馴染みとして何度も聞いた言葉。
 だがいつもより切実に、訴え掛けるような声色に私は驚く。

「愛してる、だからこそ薬の影響でルチアを僕のものにはしたくない」
「それって」
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