えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 先に馬車から降りた殿下から優しく差し出された手を取り、私はとうとう肉壁婚約者としての一歩を踏み出したのだった。


“どんな視線が飛んでくるのかと思っていたけれど”

 殿下を狙っていた令嬢だけではなく、その父親からも厳しい視線が向けられると内心不安だったこの夜会。
 だが、事前に噂が回っていたお陰なのか、思ったよりも厳しい視線は向けられてはいなかった。

 だが、弊害もあった。

「王太子様、私ベルン伯爵家の……」
「ジラルド殿下、私は……」

 身分では私の方が上のはずなのだが、残念ながら落ちこぼ令嬢ということがバレているのか、目をギラつかせている令嬢たちが殺到して来たのである。

“くっ、身分で少しでも蹴散らせると思ったのに!”

 事前の話では、夜会では互いに牽制し合って殿下をドーナツ状に囲んだままただ時間だけが過ぎると聞いていたので、今回このように直接自身を売り込んでくる令嬢が多いのは私という婚約者が出来たからだと推測された。

「均衡が崩れた今ならワンチャンあるって思っているってことよね?」

 しかも私が相手なら、勝算すらあるということなのだろう。
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