えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 合わせる顔がないだなんて思いながら、誰よりも顔を見たいと思っていたのだとそう気付いたからだ。

「おい、入っていいのか? 服は着ているな!?」
「わ、ちょっ、待っ!」

 少し苛立ったような声で急かされた私が慌てながら自身の体を見下ろすと、しっかりと衣服を着用していて安堵した。

“ジルが着せてくれたのね”

 それに体もサッパリしているので、しっかり拭いて綺麗にしてくれたのだろう。
 王太子自らがそんなことをするなんて、本当に彼は私に甘いらしい。

“これが両想いってやつなのね”

 ずっとただの肉壁だと思っていたから気付かなかった彼のそういった細やかな気遣いに甘い表情。
 特別に甘やかされていたことを今ならわかる。

「入るぞ」
「ちょっ、今いいところだったのに!」

 思わずそんな反論が出るが、兄は何がいいところだったのかわからなかったためか怪訝な顔をした。
 
「なんだ、ちゃんと服は着ているな」
「着てなかったらどうするのよ」
「知らん。妹の体に興味はない」
「何よ、随分機嫌が悪いわね……」
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