えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 両手をぎゅっと固く握り、フラージラ様を真っ直ぐ見る。
 そんな私の様子に少しだけ気圧されたのか、一瞬彼女の目が泳いだものの、すぐに気を取り直し私を睨んだ。

「我が家は火の加護、そして私は最も加護に恵まれました。この赤い髪も赤い瞳もそれを証明しておりますわ。加護なしの貴女とは違うのです! 私はっ、この加護のお陰でどれだけ熱い食べ物を食べても口内が爛れるなんてことにはならないわ!!」
「冷ませばいいじゃない!!」
「なんですってッ!」
「冷ます時間が無駄なのよっ」
「熱いものを食べてハフハフしてなさいよっ」

 さっきまでは我こそがと殿下に押し掛けていた令嬢たちが、手のひらを返したかのようにフラージラ様の援護に回る。

 その様を見て、ここは婚約者としてしっかり釘を刺すべきだと判断した私が、更に彼女の方へと一歩踏み出した、その時だった。

「ルチア、あっちで飲み物でもどうかな?」
「あっ、えっと、ハイ」

 有無を言わせぬ笑顔でそう告げられ、思わずこくこくと頷いてしまう。
 私の腰に手を回した殿下はそのまま流れるように人混みならぬ令嬢混みから抜け出した。
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