えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 この扉をジルと開き、歩いた先にいる司祭の前で永遠を誓えば私たちの婚姻は成立する。

 もちろん結婚披露パーティーは大々的に別途開催することになってはいるのだが。

 
「……嫌だった?」

 呆然としている私の表情を窺うようにジルがそう聞いてくる。
 その少し不安そうな様子すらも愛おしい。

“結局私はこの顔に弱いのよね”

 クスリと思わず笑った私は、隣に立つ彼の腕に自身の腕をぎゅっと絡めて抱き付いた。

 
 最初はただの肉壁だと思っていた。
 いつか現れる彼の運命の人。その人が現れるまでの仮初めの婚約者。

 加護もなく、王家の盾にも影にもなれなかった私にジルが与えてくれた壁役としての仕事なのだと、ずっとそう思っていたけれど。

“最初からずっと彼は本気だったのね”

 ずっとずっと、私という個を見てくれていた彼だから。
 私もずっと、もしまた彼が加護を失うようなことがあったとしても。

「ジルのことが大好きだなって思っていただけよ!」

 そう答えると、まるで花が綻ぶような笑顔を向けられる。
 その笑顔を見るだけで私の胸はじわりと熱くなった。
 
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