えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 いっそこんな私なんて見限って、噂通り節操のない女だとそう蔑み去ってくれた方が、これ以上の失態を犯さなくてすむだろう。

 熱さを増す体とは対照にどんどん冷える心と頭。
 そんな私に聞こえたのは、意外にも侮蔑の言葉ではなく、「フラージラ嬢が殿下をお慕いしているのは知っている」というものだった。

「……え?」

 突然のことで理解できず呆然としていると、眉をひそめどこか不機嫌そうなエミディオ様が私を真っ直ぐ射貫くような視線で見つめる。 

「それでも今は俺に言ってるんですよね? 殿下の代わりになるつもりはありませんが」

“ジラルド様の代わり?”

 彼が?
 彼とジラルド様は全然違う。

 だってジラルド様はどれだけ見つめても自身の婚約者しか見ていないから私と目なんて合わない。
 そして今、彼とは目が合っている。
 彼はただ真っ直ぐに私のことを見つめているから。

“私を見てくれているのは貴方なの”

 ジラルド様ではい。
 エミディオ・コンタリーニという一人の男。

「エミディオ、さま?」
「幻覚が見えている訳ではないのか……」
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