えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 ポツリとそう溢したエミディオ様がサイドテーブルからグラスに移したレモン水を口に含む。
 そしてそのまま彼の顔がゆっくりと近付き、私は目を見開いた。
 
 何故だろう。嫌悪感は一切ない。
 

 ――ずっとジラルド様のことをお慕いしていた。
 だから他の縁談は全て断ってきた。

“こんなの、知らないわ”

 思ったより柔らかい唇を重ねるだけで、こんなに気持ちいいということを。
 呼吸器官が塞がれて苦しいはずなのに、この息苦しさをもっともっとと求めてしまうということも。

 こくり、と冷たいレモン水がどんどん私に熱をつける。

「ん、きもち、い……」
「……そうか。なら、良かった。もっと飲むか?」
「ん……」

 冷たいレモン水を求めているのか、それとも思ったより熱い彼の舌を求めているのかわからない。
 
 だがわかるのは、不機嫌そうに見える彼の私を支える腕がとても優しいということと、彼の舌がとても熱いということだけだった。

 彼の首に腕を回しぎゅっと抱き締める。
 そのままベッドに引きずり込むように体重をかけると、促されるまま彼もベッドに片膝をついた。
< 232 / 262 >

この作品をシェア

pagetop