えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 だって彼は、私にはきっともったいない人だから。

「そ、それだけですから!」
「あっ、ちょっとフラージラ嬢!」

 焦ったような彼を声ごと振り切るように踵を返した私は、そのまま休憩室から飛び出した。

“思ったより時間はたっていなかったのね”

 まだ夜会が終わっていないことに安堵しつつ、だが気恥ずかしさから私は両親に声をかけることなくこっそりとコルティ公爵家の馬車へと向かう。

 何だか悪いことをしている気分だ。

“こんなに早く薬が抜けたのは、彼がいっぱい私を気持ちよくしてくれたからね”

 ドキドキと高鳴る鼓動。
 だがそれらは人命救助だったのだと割り切り、私はスッパリ忘れることを誓う。

「きっと、コルティ公爵家は今から大変なことになるもの」

 薬を盛られたのが私だけならまだ良かったが、妹はジラルド様にも盛っているはずだ。
 だってそうでなければ、女の私がいくらジラルド様を襲おうとしたとしても拒絶されて終わりだから。

 不特定多数の誰かを誘うなら、ひとりくらいは下心のある男性を釣れるかもしれないが狙いはジラルド様である以上、彼側にも盛らなくては成立しない。
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