えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
「っ!?」

 一人言のつもりだったのに返事が来たことに驚き慌てて振り返る。
 視線の先にいたのはエミディオだった。

「な、んでここに」
「俺も呼ばれてたのは知ってるでしょう」

“そうだけど!”

 だがコルティ家の人たちはかなり早くに大広間を出たはずだったのに、何故この時間までいるのだろうか。

「まさか待っていてくださったの?」

 そんなバカな、だってあの夜のことはもう無かったことになったはずなのに。
 だがそう思うのと同時に胸がドキドキと高鳴ってしまう。

 もしかしたら私は彼からの返事に期待をしているのかもしれない。

 そしてそんな私の期待に応えるようにそっと差し出されたのは濡らしたハンカチだった。

“やっぱり私を待っていてくださったんだわ”

 叩かれた頬へまるで壊れ物かのようにそっと当てられる冷たいハンカチ。
 気遣ってくれるその気持ちが嬉しくて胸の奥がじわりと熱くなった。

「や、優しいのですね。勘違いしてしまいそうですわ」

 うるさいくらいに鳴る心臓の音がどうか彼に聞こえていませんように。
 そう祈りつつチラリと彼の表情を確認するように盗み見る。
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