えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 触れたところから私の鼓動の音が伝わってしまいそうで恥ずかしい。
 
“でも、嫌じゃないわ”

 緊張もするし落ち着かないのに、安心するという矛盾。
 きっとこれは相手が殿下だからだろうとそう思った。

 どれくらい時間がたったのか。
 会話もなくただ互いの温もりに身を委ねるという幸せに思わずうっとりとしていた私だが、そういえばこれは他の令嬢を牽制するための行為だったと思い出しハッとする。
 決して任務を忘れていたわけではないのだと自分に言い訳をしながらそっと視線をテラスの入り口、夜会の会場の方へと向けて愕然とした。

「で、殿下! 誰も見ていません!」
「そりゃ人払い……じゃなくて、うん。僕たちふたりっきりだね」

 焦って見上げるとにこにことした殿下と目が合うが、目撃者がいなくてはいちゃいちゃする意味がないのだ。
 見せつけることが仕事なのだから。

“こんなのただの役得ってやつじゃない!”

 慌てて殿下の膝から降りようとするが、しっかり抱きしめられていてそれも叶わない。
 せめてもの抵抗で両腕を突っ張ってみるが、嫌がる猫を無理やり抱っこした時のような恰好になっただけだった。
< 27 / 262 >

この作品をシェア

pagetop