えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 そして私たちが、休憩室に籠って出てこなかったら、実際は違ったとしても私たちの情事が確定してしまう。

「って、そこまで印象付けてしまっていいんでしょうか……?」

 この婚約は仮初めであり本物ではない。
 この国は貞操観念にそこまで煩くはないものの、それは本当の婚約者同士の話であって破棄することが決まっている私たちはそこまで噂を流してしまってもいいのかと不安になった。

“実際は何もしていないのだから、説明すれば何とかわかってもらえたりするのかしら”

 だって私と殿下の間には本当に何もないのだから。
 そこまで考え、胸の奥がチクリと痛む。

 その痛みに気を取られていたからだろう。

「ルチアに口づけてもいいかな?」

 殿下から告げられたその言葉に、私は咄嗟に反応できなかった。
< 30 / 262 >

この作品をシェア

pagetop