えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~

5.これは本番のための予行練習

「返事がないということは、了承と受け取るね」
「はへ……、んぐっ」

 反応が遅れたせいで余りにも間抜けな声が私の口から漏れる。
 そしてそんな間抜けな口を塞ぐように、殿下の唇が重ねられた。

“ほ、本当に私、今殿下と……”

 混乱と動揺で体が硬直する。
 あり得ない出来事だが、硬直し閉じ損ねてしまった私の瞳がこれ以上ないほどの至近距離で殿下の瞳と目が合い続けていて真実だと実感した。

「――って! こういう時って瞳は閉じるものなんじゃないんですかっ!?」
「面白いくらい見られてたから、つい……じゃなくて、あぁっ! なんてことだ。つまり僕は失敗してしまったってことだね?」
「へっ!?」

 動揺のまま殿下を押し返すと、彼がショックを受けたように顔を覆って俯いてしまう。
 その姿に私の心がチクチクと傷んだ。

「だけど初めてだったんだ。仕方ないと思わないかな?」
「し、仕方ないと思います!」
「方法は知っているんだ」
「なるほど」

 私も、いつかの為に手練手管の技術は学べとお母様から渡されたロマンス小説を途中まで読んだので、口付けは目を瞑るものだと言うことは知っている。
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