えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 指摘されて一気に血の気が引いた私だったが、そんな私を慰めるように額に口付けがひとつ落とされる。
 そしてバサリとウエストコートを脱ぎ、邪魔だからとクラバットも外した。

“ひえっ、何でクラバットまで!?”

「ほら、これで好きなだけ掴んでいいよ」
「え、でも」
「ほら、ルチア触って?」
「触……っ、!」

 薄いシャツ越しに触れる殿下の心音が響き、私と同じくらい殿下もドキドキとしているのだと知る。
 緊張しているのが私だけではないということが嬉しかった。

“本当にいいのかな”

 練習って、どこまで許されるのだろう。
 小説のふたりは口付けながら相手の胸元を露出させていた。

「殿下、あの」

 ずっと触れ合っていたのに離れてしまった唇が物悲しくて、ねだるように彼を見上げる。
 彼のまるでオパールのようなカラフルに輝くその瞳が妖しく揺らぎ、そして再び口付けをくれた。

“私は序盤しか読めなかったけど”

 小説の続きはどんなことをしていたのだろうか。
 最後まではダメだとしても、序盤ならば許されるのではないだろうか?

 ――だってこれは、本番のための練習なのだから。
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