えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 それがここだけのリップサービスなのだとしても、他の誰でもない好きな人に私だけだと言われるのは嬉しかった。

「今、ジルの婚約者は私です」

 それだけじゃない、私たちはずっと一緒の幼馴染みだから。

「私の前ではいっぱい失敗してもいいですからね」
「……、あぁ。完璧ではないただの男としてこれからも側に居させてくれ」

 そう言ってふわりと微笑むジルの表情は、まるで花が綻ぶように柔らかくて温かいものだった。

 ◇◇◇

「……おい、ルチア」
「あらお兄様」

 行きと同じくジルに家まで送って貰った私は、一足先に帰っていたらしい兄に玄関で呼び止められてきょとんとする。

“何かあったのかしら?”

 その表情がどこか固く険しいことに気付いて不安になった私の胸がドキリと大きく跳ねるが、続けられた言葉にすぐ安堵した。

「お前、殿下と休憩室に籠っていたらしいな」
「あぁ、その話。えぇ、その通りよ」

 兄が知っているのならば、この見せつけ作戦は成功したのだろう。
 しかしホッとした私とは対照的に、兄は愕然とした表情になった。
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